ドロミテの山容名峰ひしめく知られざるアメリカ・カスケード山脈の魅力

2018.05.18


知られざるカスケード山脈の山々


 アラスカを除くアメリカ本土にある“山脈”は?と聞かれてまず思いつく場所はどこでしょうか。アメリカ中西部に位置しカナダからメキシコまで続くロッキー山脈や、東部に位置するアパラチアン山脈、アラスカを除く北米本土最高峰Mt.ホイットニー擁する西部のシェラネバダ山脈は知っている人も多いのではないかと思います。いっぽうで、「カスケード山脈」と聞いて、すぐにイメージできる方はまだまだ少ないのではないでしょうか。カスケード山脈はアメリカ北西部、ワシントン州からオレゴン州、カリフォルニア州北部にまたがり南北に連なる山脈です。先の3つの山脈がプレートとプレートのぶつかり合いによってできた褶曲山脈であるのに対して、カスケート山脈は環太平洋火山帯にあり、火山活動によってできた山々の連なりで、均整のとれた美しい山が多いのが大きな特徴です。


オレゴン州最高峰Mt.フッド(3,425m



Mt.レーニア周辺からMt.アダムズを遠くにのぞむ


名峰Mt.レーニア


 カスケード山脈の最高峰はワシントン州にあるMt.レーニア(4,392m)です。アラスカを除くアメリカ本土では最大面積、最大体積を誇る2つの氷河を含む25以上の氷河を擁しています。独立峰としての存在感はたっぷりで、その姿は高層ビルが立ち並ぶシアトルの町からも望むことができます。高くそして長い裾野の広がりは富士山を彷彿させ、古くから多くの日系人が暮らすワシントン州の人々からは「タコマ富士」と呼ばれ親しまれてきた山です。


迫力のMt.レーニア



レーニア山と倒映するリフレクションレイク


国立公園として保護されてきた豊かな自然


 Mt.レーニアの周辺には数多くの氷河や湖、滝、メドウ、原生林などがあり、まるで箱庭のように美しい自然景観が広がっています。また山麓にはたくさんの野生動物が生息しており、豊かな自然が育まれています。1899年には全米で5番目に古い国立公園として「レーニア山国立公園」が制定されました。国立公園を運営している「ナショナルパークサービス」の矢尻を模ったシンボルマークにはバイソン、ジャイアントセコイヤとともにレーニア山の姿が描かれています。

レーニア山の氷河を間近に望むポイントまでハイキング


可憐に咲く白いカタクリ


 私が初めてレーニア山に出会ったのはちょうど20歳を迎える頃だったと思います。高校生時代に愛読していたアウトドア雑誌に特集されていた「アウトドアの街シアトル」という記事を読み、純粋に「行ってみたい!」と思ったのがきっかけで、約1年間シアトルに滞在することになりました。シアトル滞在中には何度もレーニア国立公園に足を運び、登山やハイキング、キャンプを楽しんだことを今でも強烈に覚えており、その時の体験が今の私の原点であると感じています。レーニア山登山はクレバスの多い氷河帯の歩行が含まれる難易度の高い登山ですが、周辺には無数のトレイルが整備されており、ハイキングであれば誰でも気軽に楽しむことができます。シアトルに暮らす人々はもちろんアメリカ人に人気の国立公園なので、シーズン中はたくさんのハイカーや観光客で賑わいをみせますが、私が訪れた時に、日本人を見かけることはほとんどありませんでした。ヨーロッパ・アルプスのような迫力の雪山展望はもちろん、お花畑や鬱蒼とした森など変化にとんだ景観が魅力です。カナディアンロッキーで人気の黄色いカタクリ(グレイシャーリリー)とともに咲く、真っ白なカタクリ(アバランチリリー)が一面に咲き誇る様は本当に美しく、後にも先にもこのアバランチリリーをレーニア周辺以外で見かけたことはありません。


レーニア山とアバランチリリー


アバランチリリーの群落

高山植物の宝庫St.へレンズ火山


 レーニア山国立公園のすぐ南にはセントへレンズ山火山国定公園があります。1980年のセントへレンズ火山の大噴火では、山の北側11kmまでの範囲が跡形もなく吹き飛ばされ、噴煙は高度20,000m以上に達するほどの大規模な噴火でした。今でも火山活動は続いており、立ち入り禁止制限区域が設けられています。大噴火当時に焼野原となったエリアには新たな森が形成され、野生動物も戻ってきており、生態系は徐々に回復しつつあります。大自然の怖さと同時に自然の回復力の強さをまざまざと目のあたりにすることができることがこのエリアの魅力のひとつです。そしてもう一つの魅力は何と言っても高山植物の多さです。6月の下旬から8月にかけて、真っ赤なインディアンペイントブラシや紫色のルーピンがまるでカーペットのように広がり足元を彩ります。色鮮やかなお花畑の先に荒涼とした大地が広がり、さらにその奥には巨大な溶岩ドームから煙を噴き上げるセントへレンズ火山がそびえています。全く異なる対照的な景観を一度に楽しむことができます。

セントへレンズ火山を眺めながらお花畑を歩く


足元には色とりどりの花が咲き誇る


 そのほかにもオレゴン州にはスノーボードの聖地として知られるフッド山や、美しい水をたたえ全米一の透明度を誇るカルデラ湖クレーターレイクなど、まだまだ日本人には知られていない見どころが満載です。ぜひ、多くの方にカスケード山脈を訪れてハイキングを楽しんでいただきたいと願っています。


鏡のように周囲の景色を映し出すクレーターレイク






藤村 充宏藤村 充宏

東京本社
出身地:山口県