ドロミテの山容チベット高原

2019.08.14

多彩な自然と文化が魅力の広大なチベット高原


広義での「チベット」は、現在の中国行政区のチベット自治区だけではなく、チベット文化圏全域を指し、「世界の屋根」とも「第三の極地」とも言われるチベット高原とその周辺部までが含まれます。東は中国・四川省、雲南省から西はインド領ラダック、南はネパール、ブータンのヒマラヤ地域、北は青蔵高原の北端に至る広大な領域で、これは日本の7倍ほどの広さです。長江、メコン、サルウィンの三江併流地帯の亜熱帯からヒマラヤ8,000mの極地山岳地域、大草原と氷河湖の湖水地形など多彩な自然があり、またそこに住むチベット民族はチベット仏教文化を共通に持ちながら、その地域の自然環境に合わせて多彩な文化を育んできました。中国文化圏とインド文化圏の間にあって、独自のチベット文化を花咲かせてきたことは、人類の文化の多様性の意味からも貴重な地域です。




ヒマラヤの東、横断山脈


チベットの東部、ヒマラヤの北東に広がる地域は、古くからカム、アムド地方と呼ばれ、黄河、長江、メコン、サルウィンの河川とその間の山脈である横断山脈が複雑な地形を形成しています。湿った空気がベンガル湾から山脈沿いに入ってくることから、豪雪地帯であり、山は氷河に削られ切り立ち、標高の低い地域まで氷河が形成されています。カワカブを主峰とする梅里雪山、麗峰ヤンマイヨンが美しいコンガ雪山、高山植物で有名な四姑娘山、そして横断山脈最高峰のミニヤコンカなど、魅力的な山々がこの横断山脈に鎮座し、ハイキング、トレッキング、山岳展望、高山植物観察と多種のツアーを企画しています。


梅里雪山カワカブと明永氷河


ミニヤコンカ西面、子梅峠から


チベットの聖地・ラサとウ・ツァン地方


「ラサ」はチベットのウ・ツァン地方の中心にあり、チベット語で「神の土地」を意味し、チベット全土から人々が巡礼で訪れる聖地です。ポタラとは観音菩薩が住まう地という意味でその化身とされる歴代ダライラマ法王の宮殿でした。ラサの旧市街は聖地巡礼の目的地であるジョカン寺を中心にその周りの巡礼路バルコル(八角街)があります。ジョカン寺には五体投地する巡礼者が絶えることなく、バルコルでは多くの人々が時計回りにコルラ(周回巡礼)を繰り返して今でも聖地として賑わっています。この膨大な人々の祈りは、日本の社寺での家内安全や合格祈願などとは根本的に異なったもので、仏教の悟りの道への過程であり、生きとし生ける全てのもののために祈り、これは巡り巡ってひいては自分の幸せになるという考え方です。それを知ると巡礼者の祈る姿は感動的です。


ラサ、ポタラ宮殿


ラサの聖地、ジョカン寺前で五体投地をする人々


世界最高峰・チョモランマから聖山カイラス


チベット側では、世界最高峰エベレストのチベット名“チョモランマ(8,848m)”北壁直下のベースキャンプ・エリアまで車で入ることができます。そのほかチョー・オユー(8,210m)、シシャパンマ(8,027m)を加えた3つの8,000m峰の間近まで迫ることができるのです。このように車でヒマラヤの直下まで近づくことができるのはチベットの大きな魅力です。

そして、さらにアリ(ンガリ)地方まで足を延ばせば、インド大陸の大河であるインダス川、ガンジス川、ヤルツァンポ(プラマプトラ)川の源流域に位置する場所にチベット仏教、ポン教、ヒンズー教、ジャイナ教の聖地であるカイラス山(カン・リンポチェ
6,656m)があります。この山麓を目指す行為自体に功徳があると言われ、チベット人は一生に一度は訪れたいと考えています。


世界最高峰チョモランマ(8848m)の雄姿


カイラス

かつてヒマラヤの「禁断の国」と呼ばれたムスタン


ネパール領内のカリガンダキ川上流にチベット側へ少し突き出したようなかたちで位置するムスタンは、かつては独立した小王国でした。1991年まで外国人の入域が禁じられ、2008年までネパール政府により高度な自治権を与えられていた王国のため、外の世界との交流が限られており、そのことから、ある意味、「チベットよりもチベットらしい」という文化が保持されてきました。現代にいたっても、高額な特別許可証とアクセスの悪さもあって、独自に保持されてきた文化が受け継がれていることを垣間見ることができます。かつては片道5日間のトレッキングで訪れたムスタンの王都ローマンタンも近年の道路の延伸を受けて、現在は四輪駆動車でジョムソンから悪路を1日で訪れることができるようになりました。


ジョムソンからダウラギリⅠ峰


ローマンタン

渡部 秀樹渡部 秀樹

福岡営業所
出身地:島根県松江市